衛星AISを用いた北極海の航行実態把握に関する共同研究について
北極海では夏季に海氷面積が減少して船舶の航行が可能となります。この北極海航路を利用した欧州-アジア間の航海距離がスエズ運河経由よりも短いことから、商業的な利用に注目が集まっています。
国土技術政策総合研究所と独立行政法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)、北海道開発局、青森県は人工衛星から船舶が発信するAIS*信号を受信し、北極海地域における航行実態を把握する取組みなどを行っています。
従来より、沿岸地域の陸上局から取得されたAIS信号を利用し、船舶の航行実態の把握は行われてきましたが、この衛星技術を用いることで、陸上局を設置することなく広範な船舶の詳細な航行実態(位置、速度等)を捉えることができます。
*AIS(Automatic Identification System):船舶の識別符号、種類、位置、針路、速力、航行状態及びその他の安全に関する情報を自動的にVHF帯電波で送受信し、船舶局相互間及び船舶局と陸上局との間で情報の交換を行うシステム。
□研究の内容
図1:衛星AISのイメージ
JAXAが運用するSDS-4(小型実証衛星4型、衛星高度約680km)*が船舶より発するAIS信号を受信し、陸上局を通じて共同研究者である国総研にデータを配信します(図1)。なお衛星運用制約から、データの取得は隔週運用で北極海上空では1日90分程度に限定されています。国総研ではこのAISデータを元に、航行船舶の季節別の隻数や航行位置、海氷中を航行する場合の速度などを分析することが出来ます。海氷データは同じくJAXAが衛星「しずく」(GCOM-W1)*により取得している海氷密接度のデータを使用しています。このような取組みは日本では他に例がありません。これらの情報は、北極海航路の成立可能性を評価する際に有益な情報として活用されることが期待されます。また、2014年8月下旬からALOS-2(陸域観測技術衛星2号)から取得されるデータも使用することが可能となり、ALOS-2とSDS-4の2機によるAIS信号を利用した北極海航路を航行する船舶の航行実態の分析を行ない、成果はホームページで紹介していきます。
□これまでの成果
その@(2014年7月5-11日、7月19-25日)〔PDF〕
NEW 共同研究の成果(2020年の航行実態、2021年3月)
*SDS:Small Demonstration Satellite
*GCOM-W1:Global Change Observation Mission 1st - Water
□過去の分析事例(2013年)
図2は2013年の6月〜11月末のうちの87日間で衛星AIS(衛星1基)から取得された船舶の航跡です。北東航路の全体をカバーする広範な領域において、複数の船舶について詳細な航行実態を捉えることができます。
図2:2013年の衛星AISで捕捉できた航行実績 (6月末―11月末)
2013年においては11月末までに71隻の船舶が北極海航路を通過したとされていますが、そのうち少なくとも69隻については本研究で使用している衛星AISでその所在を把握することができています。
なお、図3、図4は船舶の航行速度の詳細を見るため、民間の衛星AISデータ(2013年)を用いて、横軸に時間軸,縦軸に経度座標をとり、北極海航路航行船舶の1時間毎の位置座標をプロットしたものです。カラゲイト海峡(東経60度)からペベク港(東経170度)までの各船舶の所要日数を確認しました。
7月の所要日数は、図3グラフ右側の2隻(2013年最初の航行船舶)を除いた3隻分については、所要日数が全て8日前後で、なおかつ速度(グラフの傾き)も概ね一定となっており、定時性があることが確認できます。9月の所要日数は、図4の全9隻とも約6〜8日で、速度もほぼ一定となっており、7月よりも定時性があることが確認できました。
このような分析は海氷の存在などにより航行条件が厳しい北極海での航行の是非を判断する重要な情報になると考えられますが、このような動向は年によっても異なると考えられることから、今後もこのような分析を継続する必要があると考えています。
図3:航行船舶の定時性(2013年7月) 図4:航行船舶の定時性(2013年9月)
□これまでの研究成果はこちらをご覧ください(国総研資料のページへ)
・衛星AISを活用した北極海航路航行実態分析手法に関する検討
http://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/tnn/tnn0768.htm
・AISを活用した北極海航路航行実態に関する詳細分析
http://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/tnn/tnn0799.htm
・衛星AISを用いた北極海航路航行実態に関する研究:2015年の航行実態を中心に
http://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/tnn/tnn0923.htm