港湾開発は今後ますます大規模化・大水深化する傾向にあ
る。波浪に関する正確で総合的な情報をとらえることは、港
湾の計画・設計・施工のいずれの分野においても重要で、今
後、現在用いられている有義波諸元に加えて、波浪を総合的
に記述する方向スペクトルの出現特性を把握する必要性が増
大していくものと思われる。
前報では、いわき沖で観測される方向スペクトルの特性を
解明すべく、1989年および1990年の2年間の観測結
果をもとに、方向スペクトルの通年的な変動特性について、
気象擾乱時における方向スペクトル形状と気象擾乱の種類・
進路との関係について、波浪場の代表波向について、波高・
波向に関する沿岸域の観測結果との関係について、それぞれ
検討を行っている。
本研究では、前報で対象とした観測を含めた約7年間の観
測結果をもとに、方向スペクトルの月別の出現特性を把握す
るとともに、2年間の観測では把握出来なかった年による変
動を明らかにした。また、特定の気象擾乱時に関する検討で
あった代表波向についても、様々な気象擾乱時を含めたより
系統的な解析を行った。さらに、主成分分析の方向スペクト
ル時系列データへの適用による、方向スペクトルの変動特性
の把握に試み、ブレットシュナイダー(Bretschneider)・光易型周波
数スペクトルおよび光易型方向分布関数による方向スペクト
ル標準型の、方向スペクトル観測値への適合性も検討した。
今回の研究により得られた主要な結論は継ぎに示すとおり
である。
? 周波数および波高に関して方向スペクトルを積分して得
られる波向別および周期別のエネルギー分布の年別・月別平
均値を求めて、経年変動や季節変動を明らかにした。エネル
ギー分布の月別平均値は、年毎にその月に生じた気象擾乱に
よって大きく変動することが示された。
? 多方向から波浪が来襲する場合、平均波向のような波向
に関する代表諸元がどの程度多様な方向スペクトル特性を代
表しうるかに関して検討を行った。この結果、特に双峰型の
方向スペクトル形状の場合は、方向スペクトルのピーク波向
と平均波向の相関は極めて低くなることが示された。波向に
関する代表諸元の船底にあたっては、その目的に会わせた適
切な選定を行う必要がある。
? 方向スペクトル標準型の、高波ピーク時の方向スペクト
ル実測値へのあてはめを行った結果、最小自乗法によって求
めた適合Smaxとしては10程度のケースが多く、方向スペ
クトル標準型の採用は、波向ピーク時においては、妥当な場
合が多いことが示された。ただし、スペクトル形状は、実測
値と標準形は完全には一致せず、主観的形状評価から見ると
形状が異なっていることが多い。
? 主成分分析を方向スペクトル時系列データに適用した結
果、上位数個の主成分で、方向スペクトルの変動の多くは再
現可能であり、本手法は、波の発達から減衰の仮定における
方向スペクトルの時系列変化の概要を把握するためには有効
な手法であることが示された。なお、各主成分の物理的意味
を考察すると、第1主成分は波の平均エネルギーに、第2お
よび第3主成分は方向スペクトルのピーク波向およびピーク
値に、それぞれ関連する主成分であると考えられる、また、
第4主成分は、S系の低周波側にエネルギーが集中するとき
に、その意味が明確となる主成分であると考えられる。
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