本報告は,世界ではじめて,沖合における長周期波のネッ
トワーク定常観測システムを構築し,我国沿岸の長周期波の
観測結果を示したものである。すなわち,港外における津波
や長周期波成分のエネルギーを観測するために,ナウファス
の波浪観測データの取得および収集を,切れ目のない連続的
なものとするようにシステムの改良を行い,この新システム
によって観測された全国沿岸の10観測地点における1年間の
長周期波の観測データの検討結果を紹介した。
以下に,主要な成果を箇条書きで示す。
(1)ナウファスのデータ収集法を改良し,切れ目のない連
続観測とデータの収集を可能にすることによって,長周期波
のための新しい観測システムを開発した。
(2)長周期波観測記録の管理・解析手法を検討するため,
仙台新港沖合で現地実証実験を実施した。この結果,長周期
波諸元は,スペクトルの周期帯別のエネルギーに対応する長
周期波高によって,よく表現されることが示された。また,
安定した長周期波高を得るには,20分間の観測では十分とは
言えず,より長時間の連続観測データを用いた方が望ましい
ことが示された。
(3)時化の前後の有義波高がそれほど高くない時に,大型
係留船舶が長周期動揺を示した事例について検討した結果,
長周期波観測によって現象を合理的に説明することを示し,
長周期波観測の有用性を明らかにした。
(4)全国10観測連続地点における1996年12月から1997年12
月までの期間を検討対象として,長周期波の観測結果のとり
まとめを行った。データ処理にあたって長周期波ファイルの
異常波形の処理法を検討した結果,ナウファスの通常の波形
処理で採用されている6σ基準で異常波形削除を行えば,異
常と判定されるデータが多くなりすぎるため,異常判定基準
値を半分の3σまで下げることとした。
(5)風浪諸元と比較した長周期波の経時変化を検討した。
異常高波浪時においては,長周期波エネルギーの多くは拘束
長周期波として説明が可能であるものの,常時波浪に見られ
る長周期波成分の大きさは,拘束長周期波として算定される
値よりもはるかに大きく,大部分が自由波進行長波成分とな
っていることが,明らかにされた。
(6)ネットワーク観測による年間を通じた沖合の長周期波
高の出現頻度統計を検討した。長周期波の季節変動や海域別
平均波高の変動は,通常の有義波高の変動と定性的にはよく
対応しており,日本海沿岸では冬高く夏低い顕著な季節差が
見られ,太平洋沿岸では日本海沿岸に比べて季節変動幅が小
さい地点が多かった。しかし,定量的には,海域毎および季
節毎の変動幅は,有義波高に対するものよりむしろ小さく,
地形条件や水深が異なっているにもかかわらず,各観測地点
とも,長周期波高の年平均値は,30秒以上の全周波数で定義
すれば4から8cm,30−60秒あるいは60− 300秒で定義すれ
ば2から4cmとなった。長周期波高の出現分布は,有義波高
の出現分布に比べて,対数正規分布とのずれが大きく,歪度
,尖鋭度とも大きめの値となった。
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