内湾における流れ場を再現するためには,境界から流入す
る水塊の密度(水温・塩分)を把握することが必要である.
東京湾外湾湾口(館山)での表層水温は館山での潮位によっ
て表されることを2章で示した.さらに,外海の水位変動に
よって東京湾内において流れが起こり,海水交換が促進され
ることを3章,4章で示した.これらの結果は今後,東京湾で
の流れや生態系の問題を数値計算によって解決するための基
礎となるものである.
東京湾には相模湾(本州南岸)固有の冷水塊と黒潮系の暖
水塊が流入し,東京湾内の海水交換を促進している.ここで
は,東京湾に流入する水塊とその機構(外力)について検討
し,気圧場から東京湾に流入する水塊特性を推測する可能性
について明らかにした.
さらに,東京湾における流れ場は非成層期と成層期で卓越
する外力が異なることを明らかにした.非成層期には朔望周
期に伴って内湾下層へ大規模な外海水の流入(海水交換)が
ある.この現象では大潮期に湾外水が東京湾外湾湾奥(横須
賀〜富津岬付近)に流入し,流入した外湾水が小潮に向かっ
て東京湾内湾下層に浸入,上層水が外湾に流出している.成
層期には非成層期に卓越する朔望周期の流れの影響は小さい
.成層期の海水交換は低気圧通過時の気圧変動や洪水によっ
て引き起こされる東京湾と外海との水位差が外力となって行
われている.両海域に水位差が生じる主な要因として,?停
滞前線,台風にともなった広域の水位変化(低気圧通過後の
気圧上昇,水位低下),?河川流出の増大による大規模プリ
ュームの伝搬が考えられる.前者は外海水位の低下,後者は
東京湾水位の上昇が起こり,東京湾内の流れが起動される.
どちらの場合も上層から流出する流れが生じ,これを補償す
るために外湾の低水温・高塩分の水塊が湾内下層に流入し,
海水交換が生じている.
|