瀬戸内海は豊後水道,紀伊水道および関門海峡の3つの海
峡を通して外海に面し,かつ,21の1級河川が流入している
.外海や河川からの流入水塊の水質・量は季節的に変化する
ため,内海水は流入水塊の微妙なバランスによって混合や滞
留の時間・空間スケールが変化すると考えられる.本論文で
は,季節に1回観測される広域の水質データ(第三港湾建設
局・瀬戸内海総合水質測定調査データ)を基に,気象庁海洋
観測資料・海況解析データおよび河川流量データを用いて,
瀬戸内海における平年の水質状態を把握し,これと比較する
ことによって年や季節の変化を起こす物理的要因について検
討を行った.
黒潮流路に伴った瀬戸内海周辺海域の水温変動について解
析した結果,黒潮流路と潮岬(紀伊水道)および足摺岬(豊
後水道)の海面水位・水温との対応が良いことがわかった.
黒潮が非蛇行流路をとる時には紀伊水道から黒潮系暖水塊が
流入し,蛇行流路をとる時には豊後水道から流入すると考え
られ,外洋と接する境界付近での水塊特性やその挙動を把握
することが重要であると示唆された.
さらに,保存系物質である塩分の季節平均分布と瀬戸内海
へ流入する河川水の挙動を考慮した数値モデル解析により,
海峡毎に異なる海水交換量を逆推定できた.東部海域の湾・
灘を隔てる海峡付近での海水交換に寄与する乱れ(拡散)エ
ネルギーを詳細に検討した結果,紀淡〜鳴門〜明石海峡の順
に大きく,10月期,2月期に比べて5月期,8月期の方が大き
くなることが認められた.このことは,湾・灘の海水交換量
を精度良く見積もるためには,海域に実在する水塊の性質を
適正な時間・空間スケールで評価する必要があることを示唆
している.
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