干潟の生態系を保持・創造していく上で,底質の粒径,澪
筋などの微地形や海底勾配を含む地形変化の予測を正確に行
うことは,工学的に極めて重要な課題である.本研究では,
自然干潟における浮遊砂の生成,砂面変動等に代表される漂
砂の基本特性を把握することを目的として,冬期の東京湾盤
洲干潟において,波,流れ,浮遊砂,地形に関する短期の現
地観測を行った.
その結果,有義波高0.8mを超える,東京湾奥部としては比
較的大きな時化による有意な地形変化を捉えることに成功し
た.これは,下げ潮時に大きな波浪が来襲し,かつ風の吹送
方向と潮汐流の方向が一致したときに大量の浮遊砂が生成さ
れて,侵食が進行するというものであった.盤洲干潟は長期
的には3.8cm/yの速度で徐々に堆積しているものの,本観測
では,高濃度の浮遊砂が断続的に発生するイベントによって
,16日間の観測期間中に最大8cm程度の侵食が生じることを
見出した.また,底面せん断応力とシールズ数を用いた解析
を行った結果,盤洲干潟の底質移動には浮遊砂が大きく寄与
していること,そして,潮汐およびそれに伴う水深変化に追
従して変動する波浪が,高濃度の浮遊砂の発生に対して重要
な役割を果たしていることを明らかにした.一方,水位の低
下とともに波高が減少して埋め戻されるため,結果として,
潮汐に対応した形で小規模な侵食と堆積を繰り返しているこ
とが分かった.
以上のことから,盤洲干潟の地形は短周期で侵食・堆積を
繰り返しながら,長期的には動的に安定しているものと判断
された.
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