当研究所では1994年にメソコスムのサイズスケールを
持つ干潟実験施設を整備した。この施設を利用し、自由に環
境条件を設定した実験から得られる知見は、港湾における干
潟の修復や創生を考える際に大いに役立つと思われる。本研
究では、?この干潟実験施設の概要、?実験施設内水槽の壁
面が底生生物分布に与える影響、?1995年夏期の物質収
支に関する実験についてまとめた。
水槽壁面の底生生物への影響に関しては、実験に用いた生
物の現存量の分布に、壁面が直接影響を及ぼしていないと判
断された。今後、壁面がベントスの代謝速度に及ぼす影響に
ついても調査する必要がある。
物質収支に関する実験からは、干潟がいつでも浄化機能を
有しているわけではないことがわかった。6月に比べて7月
はどの物質もsink(干潟に物質が蓄積すること)になる
傾向があった。この理由として、7月の実験における物質の
inputが多かったことと、7月から9月にかけて、各水
槽の泥面に珪藻類および藍藻類を主とした底生藻類の大増殖
が起こり、matが形成されたことが推察された。実験水槽
内の生態系は、運転開始から約半年しか時間が経過していな
く、遷移の初期段階にあるといえる。この段階の生態系はま
だバランスがとれておらず不安定である。底生藻類のmat
形成やコケゴカイの大増殖と急激な衰退は、その典型的な例
であろう。
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