伊勢湾に人工島方式で設置される中部国際空港の環境影響
評価書に対し、日本海洋学会海洋環境問題委員会から見解が
出され海洋学会誌に掲載された。見解には、影響評価に際し
て適切な手法が選択されていないのではないかという疑問も
含まれていた。これを契機に、内湾に人工島などを設置する
際の、環境影響予測の手法、評価の方法などを現在の知見を
もとに考察した。
内湾での物質の輸送の視点からは、岸近くでの波を主たる
外力とする輸送のシステムから、やや沖合での潮流や吹送流など
を主たる外力とする輸送のシステムを経て、内湾の大きな循
環構造による水塊間の輸送システムなどに到る、ある種の構造性
を持っている。生物相も、潮間帯、浅場、沖合、外海と様相
を変え、それぞれつながりを持っているものの独自の振る舞
いを示している。このような仕組みに対する理解に立って、
人工島の設置位置や規模、周辺環境の様態に応じ、影響予測
や評価が行われることになる。
人工島設置に伴う沿岸の汀線地形の変化予測、人工島周辺
での底質粒度の変化予測、人工島周辺での水質の変化予測の
予測評価の手法を取り上げ、予測技術の現状と手法選定上の
留意点を整理した。予測評価の目的に応じた手法の選定のた
めには、個々の手法の持っている特性に対する理解がまず必
要である。また、ある特定海域での適用手法を、他の海域に
おいて適用することは必ずしもふさわしくないこともあり、
内湾環境の構造性に配慮し、立地位置の自然条件に応じた手
法の選定が重要であることを指摘した。そのうえで、今後の
技術開発の方向について提示している。環境影響予測に際し
ては、汎用化された予測モデルの機械的な適用で済ませるこ
となく、その場の自然環境や環境影響の機構に関する十分な
調査と理解がまず必要である。
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