東京湾湾口部に開口した浦賀湾で壁面付着生物相を観察し
た.直立壁ではフジツボやムラサキイガイを中心とする富栄
養化内湾の典型的な生物相であった.壁面設置年次の差の利
用や壁面生物削り取り後の再付着の観察などにより,経年的
な再付着状況を検討した.削り取り後20日目の壁面では,生
物量(湿重量)も生息種も少なかったが,微小珪藻の定着が
みられた.削り取り1年後の直立壁面では,植物・動物とも
に種類数が急増していた.波堤設置後2〜15年経過した直立
壁を観察・比較した.湿重量では,1年目の急増後に2年目以
降減少し,15年目の壁面の状況に近づいていた.15年目の生
物相を基準にとって,生物群集の構造を類似度指数で比較し
た.港外側の直立壁では,削り取り後20日目では類似度は低
いが,1年目にはかなり類似度が高くなり,その後3〜4年目
からさらに15年目の構造に近づいた.卓越種の一つであるム
ラサキイガイを対象に,殻長の分布から年齢分布を推定した
.この海域では2〜3年をサイクルとした脱落・更新がおこな
われた形跡がみられた.ここでは,必ずしも毎夏ムラサキイ
ガイが脱落するわけではないようである.
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