主に骨材事情の劣悪な地域で,アルカリ骨材反応(ASR
)によるコンクリート構造物の損傷事例が報告されている.
ASRは,水分の供給により反応が加速されるため,いくつ
かの臨港交通施設の橋脚やフーチング等で顕著な損傷が認め
られている.このような構造物においては,コンクリートの
強度および弾性係数の低下やかぶりコンクリートの剥落等に
より,構造性能の低下が懸念されるだけでなく,コンクリー
ト表面に発生したひび割れから塩化物イオン,水,酸素がコ
ンクリート内部に浸入できるようになるため,内部鉄筋の腐
食も危惧される.しかしながら,ASRによる損傷度と構造
物の力学性能や耐久性能の関係については体系的に整理され
ているとは言えない.そこで本研究では,ASRにより損傷
した鉄筋コンクリート試験体を作製し,その正負交番載荷試
験を通じて,ASRによる損傷がコンクリート部材の力学挙
動に及ぼす影響を調べた.また,ASRによる損傷を受けた
構造物の補強方法として,PC巻立て工法を取り上げ,その
有効性を調べた.その結果,ASRによる損傷を受けても,
耐荷力およびじん性が著しく低下することはなかったが,試
験体の破壊過程や破壊形態,ならびにエネルギー吸収性能に
ASR損傷による影響が見られた.また,ASRによる膨張
は環境条件の相違により異方性が存在するため,載荷方向に
よって力学挙動が変化した.さらに,PC巻立て工法により
補強した試験体の載荷試験結果より,耐荷力および靭性の両
面からの補強効果を確認することができた.
|