沖縄県中城湾の泡瀬地区を中心とする約265 haの干潟を含む約1100 haのサン
ゴ礁に囲まれたラグーンを研究対象として,沿岸域に生息する生物の構成
(生物群集の構造)を指標とする沿岸域の統合的な環境評価を行う方法を提
案,試行することを目的とした研究を実施した.採用した手法は,沿岸生態
系の生物群集の構造を,生物生息を支配する環境条件を指標とする環境機能
により,代表的な生物群の構成割合として部分的に評価するという位置づけ
の手法であるHSI (Habitat Suitability Index:生息場適正度指数)を用い
た.具体的には,個別の環境指標を対象としてHSIの得点が高い(>0.9)の領
域を抽出し,各生物群への適性が高い領域を各生物群の適性領域の大きさと
し,生物群集毎の適性領域の大きさを比較することで,生物群集の構造を評
価することとした.対象領域においては,ベントスおよび大型海草が支配的
な場であることが示され,埋立て事業による影響は,クビレミドロ,ベント
スのIV類(ニナが卓越する群),VI類(環形動物が卓越する群),大型
海草の分布域で相対的に高く,ベントスIV類と大型海草の分布域では絶対
量としての影響が大きいことが示された.また,各生物群集の構成割合から
見るとベントスIV類を除いて大きな変動がないことも示された.こうした
議論が比較的簡易なデータ操作により可能となる本手法は,海域の生態系の
保全・再生・創出の計画立案,モニタリング計画の立案などに有効であるこ
とが示されるとともに,施工時の影響評価,モニタリングにおいては,評価
対象となる生物群の実データ取得が不可欠であることが示唆された.
|