海洋短波レーダ(HFレーダ)でなにができるのか

 
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


平成165

 

国土技術政策総合研究所

沿岸海洋研究部


 

 

 

 

この小冊子は,海洋短波レーダ(HFレーダ)という新しい海洋環境観測機器の紹介と,その利用について,解説したものです.

 

もし,疑問に思うこと,ご意見などありましたら,下記までご連絡ください.当研究室のHFレーダの専門家,モニタリングの専門家,沿岸域のモデル化の専門家などが皆様からのご連絡をお待ちしております.

 

 

 

この小冊子に書かれていること

 

海洋短波レーダ(HFレーダ)とは... 1

レーダの種類と特性... 3

どんなデータが取れるのか... 4

そのデータの利用法について... 5

HFレーダをめぐる状況... 6

興味を持っていただいたら... 7

 

 

 

 

 

国土技術政策総合研究所

沿岸海洋研究部 海洋環境研究室

室長 古川恵太

主任研究官 日向博文

 

239-0826 神奈川県横須賀市長瀬3−1−1

電話                          046−844−5023

ファックス              046−844−1145

Eメール                   furukawa-k92y2@ysk.nilim.go.jp


海洋短波レーダ(HFレーダ)とは

 

海洋短波レーダ(HFレーダ)は、短波帯の電波を用いて遠隔地より海面の流れや波を観測するリモートセンシングの機器です.その原理は、Crombie (1955) により発見され、Barrick (1972)らによって実用化されました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海面の動き(波の移送速度)をドップラーシフトの原理で計測するのですが,電波の周波数や形式,アンテナによるビームのつくり方,信号処理の方式などで世界に10種類程度のHFレーダがあります.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

国総研で導入しているレーダは,

     位相差素子法のアンテナシステム

・ FM方式のレーダ信号

・ 中心周波数 24.515 MH

・ 帯域幅 100 kHz

・ ピーク出力100 W(平均50 W

というスペックで,

     最大到達距離 80 km

     距離分解能 1.5 km

     方向分解能 15°

の計測が可能となっています.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうしたレーダは,21セットで数十km四方の範囲の表面流速を1時間〜数時間毎にモニタリングすることが可能です.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Barrick, D.E. (1972): Remote sensing of sea state by radar. in Remote Sensing of the Troposphere, Ed. V.E. Derr, NOAA/Environmental Research Laboratories, pp. 12-1-12-46.

Crombie, D.D. (1955): Doppler spectrum of sea echo at 13.56 Mc/s, Nature, No. 175, pp. 681-682.


レーダの種類と特性

 

海洋レーダは、電波の種類、アンテナの形式などで様々な種類があります。

 

まずは、どのくらいの波長の電波をつかうのかで大きく

    短波レーダ (High Frequency: HFレーダ) 数MHz〜

    超短波レーダ (Very High Frequency: VHFレーダ) 30MHz〜

に分かれます。

 

電波は、周波数が低い方が効率よく伝わり(少ない出力で遠くに届き)ますので、短波レーダの方が、広域の観測に向いています。ただし、分解能は、使える周波数の幅によるので、周波数の幅を広く占有できる超短波レーダの方が一般的に高解像度です。

 

また、電波の方向を制御する方法として、

    BF(Beam Forming

    DF (Direction Finding) または DBF(Digital Beam Forming

という2方式があります。前者は、電気的・機械的にアンテナの指向性を作り出し、界面を順次走査する手法で、機構が簡単、データ解析が容易といった特徴を持ちます。後者は、測定範囲全体に照射され散乱してくる信号を同時に受信し、受信信号を処理して方向成分に分けるので、測定時間が短縮できる特徴を持ちます。最近はDBFが多くなってきました。

 

表−1 世界の海洋短波レーダシステムの例

名前

周波数

帯域幅

レンジ

分解能

アンテナ規模

変調

方向分解

CRL/NILIM

24.515

100

96

1.5

40

FMCW

BF

CODAR

PISCES

OSCR

COSRAD

25

7

55

30

125

20

600

 

60

200

15

>20

1.2

7.5

0.25

3

90

200

83

40

Pulse

FMICW

Pulse

Pulse

DF

BF

BF

BF

 

(MHz)

(kHz)

(km)

(km)

(m)

 

 

CRL/NILIM (日本):郵政省通信総合研究所の開発による海洋短波レーダ、

CODARUH-CODAR (アメリカ):NOAA開発のCODARシステム

PISCES (フランス):トロン大学のシステム

OSCR (イギリス):Marconi開発のOSCRシステム,バーミンガム大学開発のシステム

COSRAD (オーストラリア):ジェームスクック大学のCOSRADシステム

FMICW:周波数変調 BF: Beam Forming, DF: Direction Finding


どんなデータが取れるのか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

HFレーダでは,表面の流れの他に,波高や波向き,風なども測れると言われていますが,今のところ,実用化されているのは流れの観測だけです.

相模湾で観測した例を下に示します.千葉県の布良と神奈川県の平塚にレーダを設置して,蛇行した黒潮の分枝流が,大島の西側から相模湾を通り,東京湾に到達する様子が捉えられています.また,大島の背後や相模湾沿岸部に渦ができていることも,はっきりと判ります.このデータの明快さがHFレーダの身上です.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


相模湾における計測事例 (2000年12月31日から2001年1月1日にかけての流れ.国総研所有のHFレーダによる観測)


そのデータの利用法について

 

流れを常時観測できると,様々な利用法が考えられます.

 

現象の解明だけでなく,湾内の浮遊ゴミの監視,青潮・赤潮の移動の監視,油流出事故への対応,漁業者への情報提供といった利用が考えられます.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


監視体制をさらに充実させるためには,HFレーダによる観測だけでなく,係留モニタリングや環境整備船による観測との連携が効果的です.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沿岸環境モニタリングで得られるデータは,リアルタイムに東京湾環境情報センターへ送られ,常に新たな情報が利用者に提供されます.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうしたデータの蓄積は,モデルとの連携で,より詳細な検討を行うことができると共に,港湾計画の検討や事業実施時の参考にすることができます.

 

 

HFレーダをめぐる状況

 

現在,日本には,国総研の他に,海上保安庁・通信総合研究所・北大・九大・三重県が所有するHFレーダがあります.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


HFレーダは,非常に多くの周波数を占有するために,無尽蔵に免許を受けることができません.内湾域や沿岸域での使用に適した周波数である24MHz帯では,中心周波数 24.515 MHz,帯域幅 100 kHzという領域が唯一HFレーダに許可された領域です.

 

現在は,先駆的な実験を行った機関(国総研を含む)間の話し合いで,同一周波数を用いた運用が行われています.

 

 

興味を持っていただいたら

 

http://www.nilim.go.jp/

              データベース 環境情報〜東京湾〜 海洋短波レーダ観測

をご覧下さい.

 

http://www.ysk.nilim.go.jp/kankyo/ hfradar/archive/rireki.html

から直接データをご覧になれます.