東京湾広域アサリ浮遊幼生調査(アサリプロジェクト)

IV. 総 括

 

「東京湾広域アサリ浮遊幼生調査」では、目合100 μmのネットと併せて、目合50 μmのネットを使って海水を濾過することによってアサリ幼生を採集しました。これにより、生まれて間もないと考えられる殻長100 μm程度のD型幼生を正確に定量することができたとともに、その出現密度の分布から自然の干潟や浅場以外に、港湾区域のような水深のある場所にもアサリの産卵個体群が存在する可能性を示すことができました。また、観測を4日毎に3回行うことによって、アサリ幼生の移流過程の一部を明らかにすることができました。東京湾と他の海域とでは、アサリ幼生の殻長成長速度や浮遊期間などは異なる可能性があります。しかしながら、本研究の観測および解析方法は、アサリの初期生態を解明していく上で非常に有効であると考えられます。

 

8月および10月の調査では、それぞれの季節の特徴的な環境条件、すなわち、8月においては顕著な密度フロント、10月においては卓越する北偏風や台風、などの海況下におけるアサリ幼生の動態を観察することに成功しました。本調査で明らかとなった東京湾におけるアサリ幼生の生残過程に対する海況の作用については、夏季および秋季の特性を表していると考えられます。今後、一連の研究で得られたアサリ幼生の分布,海況などのデータを基に数値計算を行うことによって、東京湾における幼生の移流拡散経路の推定を行うとともに、幼生の発生から着底までの生残過程を季節ごとに明らかにする予定です。

 

最後に、本研究を行うにあたり、千葉県水産研究センター富津研究所 鳥羽光晴博士には、アサリの生態に関する多くの貴重なご助言を頂きました。ここに感謝の意を表します。本研究の一部は、運輸施設整備事業団「運輸分野における基礎的研究推進制度」による援助を受けて行われました。

 

目次へ戻る

 

 

V. 参考文献

柿野 純 (1992):アサリ漁業をとりまく近年の動向.水産工学,29,pp. 31-39.

柿野 純・鳥羽光晴 (1990):千葉県北部地区貝類漁場におけるアサリ資源の特性について.千葉水試研報,48,pp. 59-71.

粕谷智之・浜口昌巳・古川恵太・日向博文 (2003):夏季東京湾におけるアサリ(Ruditapes philippinarum)浮遊幼生の出現密度の時空間変動.国土技術政策総合研究所研究報告,第8号,pp. 1-13.

粕谷智之・浜口昌巳・古川恵太・日向博文 (2003):秋季東京湾におけるアサリ(Ruditapes philippinarum)浮遊幼生の出現密度の時空間変動.国土技術政策総合研究所研究報告,No. 12,pp. 1-12.

粕谷智之 (印刷中):東京湾におけるアサリ浮遊幼生の動態. 独立行政法人水産総合研究センターシンポジウム「アサリの生産を支える生物生産環境の問題点と新たな研究視点」プロシーディングス.

Kasuya T., M. Hamaguchi and K. Furukawa (in press): Detailed spatial observation of larval abundance of the clam Ruditapes philippinarum in Tokyo Bay, central Japan.  Journal of Oceanography.

工藤孝浩 (2000):資源の管理者不在の海浜におけるアサリ採捕の問題.沿岸域,13,pp. 87−92.

桑原 連 (1990):東京湾内湾域の砂泥性底生動物相.東京農業大学農学集報,35,pp. 152-166.

越川義功・棚瀬信夫・大槻 晃 (1999):横浜平潟湾における遮水壁撤去後のアサリの生息回復とその特性.水産増殖,47,pp. 481−488.

佐々木克之 (2001):東京湾口部金沢湾におけるアサリ再生産の好適条件.中央水研ニュース,27.

新保裕美・田中昌宏・越川義功・柵瀬信夫・池谷 毅 (1999):現地調査によるアサリ生息量と環境要因との関係の検討 -神奈川県金沢湾・平潟湾を対象として-.海岸工学論文集,46,pp. 1216-1220.

東京湾再生推進会議 (2003):東京湾再生のための行動計画(最終とりまとめ).21 pp.

第二港湾建設局横浜調査設計事務所 (1974):東京湾の水質環境.277 pp.

田中彌太郎 (1979):二枚貝類幼生の同定−@.海洋と生物,2,pp. 27−33.

田中彌太郎 (1982):二枚貝類幼生の同定-O.海洋と生物,18,pp. 23-26.

鳥羽光晴 (1987):アサリ種苗生産試験-1, 人工種苗生産したアサリの成長.千葉県水産試験場研究報告,45,pp. 41-48.

鳥羽光晴 (1992):アサリ幼生の成長速度と水温との関係.千葉県水試研報,50,pp. 17-20.

鳥羽光晴 (2002):千葉県のアサリ漁業の現状.日本ベントス学会,57,pp. 145-150.

鳥羽光晴・深山義文 (1994):飼育アサリのサイズと成熟,産卵の関係.日本水産学会誌,60,pp. 173−178.

鳥羽光晴・夏目 洋・山川 紘 (1993):東京湾船橋地先におけるアサリの生殖周期.日本水産学会誌,59,pp. 15-22.

浜口昌巳 (1999):瀬戸内海アサリ漁場生態調査における適用方法の開発.魚介類の初期生態解明のための種判別技術の開発.農林水産省農林水産技術会議事務局,東京,pp. 66-76.

古川恵太・粕谷智之 (2003):アサリのすむ海岸の整備に向けて.防護・環境・利用の調和した海岸を目指して.土木技術資料,45:36-41.

風呂田利夫 (1988):東京湾における貧酸素水の底生・付着動物群集に与える影響について.沿岸海洋研究ノート,25,pp. 104-113.

風呂田利夫 (1997):干潟と浅瀬の生物.沼田眞,風呂田利夫(編),東京湾の生物誌,築地書館,東京,pp. 45-75.

風呂田利夫 (2000):内湾の貝類,絶滅と保全 -東京湾のウミニナ類衰退からの考察-.軟体動物学-動向と将来-.月刊海洋/号外,20,pp. 74-82.

松村貴晴・岡本俊治・黒田伸郎・浜口昌巳 (2001):三河湾におけるアサリ浮遊幼生の時空間分布 -間接蛍光抗体法を用いた解析の試み-.日本ベントス学会,56,pp. 1-8.

 

目次へ戻る