国土技術政策総合研究所 沿岸海洋・防災研究部 海洋環境研究室
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研究紹介

東日本大震災によって影響を受けた港湾域の環境修復


東北地方太平洋沖地震によって発生した津波によって、港湾域の環境は多大な影響を受けました。特に生物生息基盤の消失(干潟、浅場、アマモ場の消失)は、周辺水域の生態系に甚大な影響を与え、ひいては地域住民の社会基盤および生活環境に大きな影響をもたらす可能性があります。 また、湾内水質悪化の要因となっていた港湾構造物の復旧には、環境に配慮した構造(海水交換促進型の湾口防波堤、生物共生型護岸)が求められています。

環境に配慮した港湾構造物の復旧

東北地方太平洋沖地震に伴う津波被災後の大船渡湾の水質に関する研究
  2011年3月に発生した東北地方太平洋沖地震に伴い発生した津波によって,大船渡湾の湾口防波堤が流失しました.大船渡湾は水質改善に対して多大な努力を行ってきた水域であり,湾口防波堤の復旧に際しては,環境への配慮が重要であると考えます.環境に対する配慮として,如何なる対策が有効であるかの検討に対して,現状の湾口防波堤が無い状態での水環境特性を把握し,湾口防波堤がある状態との比較を行うことは非常に有用です.そこで,本研究は,現在の湾口防波堤が無い状態での観測を実施し,湾口防波堤が無い状態での水環境特性を明らかにすること,および環境に配慮した湾口防波堤の復旧を考える際の留意点を明らかにすることを目的としています.

大船渡  調査の結果,次のことが明らかとなりました.
水質に関しては,
①湾口防波堤が無い状況では,貧酸素水塊は形成されなかった,
②底層のDO濃度は,湾口防波堤がある状況と同じ減少率で低下していた,
③月に数回の頻度で突発的に流入する湾外水の影響によって,貧酸素化は免れていた.
底質に関しては,
①底質は,被災前後でほぼ同じだった,
②撹乱・再堆積の痕跡は,約20 cmまであった.流況に関しては,湾口防波堤が無い状況の平均的な流況は,表層から水深4 mは流出,水深4 mから水深15 mは流入,水深15mから底層までは流出の3層構造だった.
これらのことから,環境に配慮した湾口防波堤の復旧を考える際には,下層の流れの阻害を低減し湾内低層の低水温化を防ぎ,および突発的に湾外の底層から入ってくる低水温水塊が流入し易くする技術開発が重要であると考えています.

参考文献
・岡田知也・古土井健:東北地方太平洋沖地震に伴う津波被災後の大船渡湾の水質に関する研究,国総研資料,No.831,2015.
・古土井健・高尾敏幸・村上和男・中村由行・阿部郁男・岡田知也・小笠原敏記・柴木秀之:大船渡湾の長期水質変動特性の把握,土木学会論文B2,Vol.71,No.2, pp.427-432,2015.
・古土井健・堺茂樹・村上和男・中村由行・阿部郁夫・岡田知也・柴木秀之・高尾敏幸,現地観測データによる大船渡湾海域環境の影響要因の分析,土木学会論文B2,Vol.70,No.2, pp.426-430,2014.
・古土井健・堺茂樹・村上和男・中村由行・阿部郁夫・岡田知也・柴木秀之・高尾敏幸:数値モデルを用いた大船渡湾の水質変動特性の把握,土木学会論文B2,Vol.70,No.2, pp.421-425,2014.
・村上明宏,堺茂樹,村上和男,中村由行,岡田知也,高尾敏幸,柴木秀之:東北太平洋沖地震津波後の大船渡湾の水質・底質の現状,土木学会論文B2,Vol.69,No.2, pp.496-500,2013.

海域環境修復・再生

東日本大震災で被害を受けた宮古湾のアマモ場の復活の可能性について

amamo  2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震によって発生した津波によって、砂質に生育するアマモ(写真)も多くが消失しました。アマモ場は、「海のゆりかご」と呼ばれ,魚類の産卵場および幼稚魚の生息場として機能するなど沿岸生態系の基盤の一つであり、消失による沿岸生態系への影響は非常に大きいと考えられます。そこで、震災以前はアマモ場が形成されていた宮古湾奥において、その復元を目指して、アマモと底泥の現状を把握するとともに、今後の復元の可能性を把握することを目的としています。
アマモの生育条件の中で、津波によって大きく変化した可能性がある粒度に着目して調査を実施しました。2012年10月に宮古湾の湾奥で120点においてアマモの分布状況を把握するとともに採泥を行いました。また、アマモの種子等の輸送経路を把握するため、3次元モデルを用いて湾内における流れを計算しました。

bunnpu 今回の調査から、アマモの生育に対して適した底質条件の地点が多く残っていることがわかりました。小規模ながらも残ったアマモ場が周辺に少しずつでも着実に広がることが考えられます.また,密生が確認されたアマモ場が供給源となり広域的にアマモ場が回復することが,数値計算の結果から考えられます.アマモ場が着実に回復することを期待して,引き続きモニタリングを進めていきます。



参考文献
・岡田知也, 井芹絵里奈,宮古湾における底泥およびアマモのモニタリング結果(2013年10月),国総研資料,No. 796,2014.
・岡田知也・丸谷靖幸・中山恵介・井芹絵里奈:宮古湾における津波後のアマモ場の復元に関する検討,土木学会論文B2,Vol.70,No.2, pp.1186-1190,2014.
・岡田知也,古川恵太:宮古湾における津波からのアマモ復元の視点でみた底質状況,土木学会論文B3,Vol.69,No.2, pp.31-36,2013.
・岡田知也, 丸谷靖幸,中山恵介, 古川恵太,宮古湾における底泥およびアマモのモニタリング結果(2012年10月),国総研資料,No.752,2013.